ITシステムの「2025年の崖」がやってくる
- 2025年1月14日
- 中小機構 中小企業アドバイザー(経営支援) 村上知也
- 2025年の崖
2025年がスタートしました。経済産業省では、2018年のDXレポートにて「2025年の崖」と銘打って、老朽化したシステムを使い続けるリスクに言及していました。
今回は、この「DXレポート」の内容を確認していきます。
◆DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/
20180907_report.html
2025年の崖とは
「2025年の崖」という言葉は、経済産業省が提唱した概念で、日本企業が直面するITシステムの課題を指しています。主に以下のような問題が挙げられています。
どんな業界においても、新たなデジタル技術を活用して新しいビジネスモデルを創出し、 柔軟に改変できる状態を実現することが求められています。しかし、現状の業務フローやシステムが複雑化・老朽化・ブラックボックス化しており、新しい取り組みの足かせになっているケースが多く見受けられます。
既存のシステムを残存させた場合、2025 年までに予想されるIT人材の引退やサポート終了によるリスクの高まり等に伴う経済損失は、2025年以降で、最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼる可能性があると、DXレポートでは述べられています。
中小企業にも関係あるの?
既存システムの複雑化が問題などといえば、それは大企業の話であり、中小企業にはあまり関係しないかもしれません。しかし老朽化が新しい取り組みの足かせになっているケースは、中小企業でもよくあるのではないでしょうか?
最近訪問した事業者の中で、「崖」に遭遇した事例を2つ紹介します。
【事例1】15名規模の運送業者
毎日の配送ルートや配送表がシステム化されており、15年前に導入されたシステムを利用されていました。早い段階からシステム化に取り組まれていた点は素晴らしいことですが、現在ではいくつかの問題が生じている状況でした。
まず、15年前の業務に最適化されたシステムであるため、年月が経過した現在では業務内容に適合しておらず、変更すべき点が多く挙げられました。しかしシステムに柔軟性がないため、業務をシステムに合わせて行わざるを得ない状況となり、その結果「③業務の非効率」を引き起こしていました。
さらに深刻な問題として、システムのハードウェアが老朽化しており、OSにはWindows XPが使用されていました。Windows XPの延長サポートは2014年に終了しており、「①システムの老朽化」によって「④セキュリティリスク」が大幅に高まっていることは明らかです。
加えて、このシステムはいつ故障してもおかしくない状態にあり、万が一故障した場合には業務運営に深刻な影響が及び、事業継続が危機に瀕する可能性があります。
【事例2】6店舗を展開する小売業
販売在庫システムを自作して運用されていました。店舗間で在庫の融通を行う必要があるため、独自のシステムが必須であり、先代社長が30年前にオフコンとCOBOLを用いて構築されたものだそうです。
社内にはシステムを管理する技術者を置いて対応してきましたが、その技術者も現在70歳になり、退職を希望されています。しかし、現社長としては技術者が退職してしまうとシステム対応が困難になる恐れがあるため、定年延長をお願いしている状況です。
「②人材の高齢化」が進む前に、システムのオープン化を図り新しいシステムを導入しようとしましたが、見積金額が予想を大幅に上回ったため、リニューアルには踏み切れませんでした。その結果、システムは「①老朽化」の問題を抱え続けています。
このように、「2025年の崖」は大企業だけの問題ではなく、中小企業にも大きな影響を及ぼしていることがわかります。
このまま崖を迎えると?
経済産業省のDXレポートによると、このまま問題を放置していると、さまざまな課題が生じるとされています。事業者側では、爆発的に増加するデータを十分に活用できず、デジタル競争で敗北する可能性があります。また、システムトラブルやセキュリティ事故が発生することで、事業継続が困難になるリスクも指摘されています。
さらに、ITベンダー側でも、老朽化したレガシーシステムをサポートし続けることが難しくなる恐れがあります。
このレポートですが、実は2018年に発表されており、2025年までにシステムリニューアルを推進しましょう!というものでした。しかし、遅々として進まないまま、2025年を迎えようとしています。
「2025年の崖」の対策は?
それでは、どのような対策を進めればいいのでしょうか?DXレポート内では、「DX 推進システムガイドライン」に従って進めようとしています。このガイドラインは「デジタルガバナンス・コード」と改名され、2024年9月にVer3.0が発行されていますので、全体像を確認します。
出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コードとは」https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc.html
視点①として挙げられているのは、経営ビジョンとDX戦略の連動です。2025年の崖に対応するためには、単にシステムが古いから入れ替えるだけでは不十分です。現代の状況に適した経営ビジョンやビジネスモデルを再構築し、その上でDXを活用してどのようにビジネスモデルを実現していくかが重要です。
視点②として、As-Is(現状)とTo-Be(あるべき姿)を比較し、具体的な対策を立案していくことが求められます。そして、視点③として、新しい取り組みを企業文化に定着させることが必要です。
デジタルガバナンス・コードについては、ここからアプリでも以下の記事で解説していますので、ご確認ください。
◆デジタルガバナンス・コード〜デジタルを踏まえた経営ビジョンを作るためにhttps://ittools.smrj.go.jp/info/feature/eppl3m0000000sjg.php
まとめ
多くの企業が、現状のままの仕組みで事業運営を続けた場合、「2025年の崖」に直面し、事業継続が困難になる可能性があります。
しかし、2025年を迎えたからといって、すべてが手遅れになるわけではありません。早い段階で課題に取り組み、適切な対策を講じることで、困難を乗り越え、再び成長軌道に乗ることも十分に可能です。
まずは、現状の課題を徹底的に洗い出し、将来を見据えたビジョンやビジネスモデルの再構築に取り組むことが重要ではないでしょうか。